読書バリアフリーフォーラム前半 【開会 02:35〜】 ただいまより、「読書バリアフリーフォーラム、すべての県民に読書の喜びを、読書バリ アフリーの現状と課題」を開催します。 本日進行させていただきます、県立図書館、間(はざま)と申します。 どうぞよろしくお願いいたします。 開会にあたりまして、鳥取県教育委員会教育長、足羽英樹(あしばひでき)がご挨拶申し 上げます。 足羽教育長よろしくお願いします。 【教育長あいさつ 03:27】 皆様改めまして、こんにちは。 ただいまご紹介いただきました、鳥取県教育委員会教育長しております、足羽英樹と申し ます。 どうぞよろしくお願いいたします。 本日は、読書バリアフリーフォーラムを開催しましたところ、このように、会場にもたく さんの皆様、またオンラインで視聴いただいている皆様もあると伺っております。 たくさんの方に、この読書バリアフリーについてご関心、心を寄せていただきましたこと に、まずもって、御礼を申し上げます。 昨年来、日本全世界、そして日本、そしてこの鳥取県も巻き込んだ、新型コロナウイル ス、感染が今、ようやく落ち着きを見せつつあるところでございます。 今回のこのフォーラムの開催に当たりましても、本当に対面でできるんだろうか、最後の 最後まで検討を重ねたところ、ようやく落ち着いたという兆しの中で、今回このように開 催をさせていただくことができました。 会場の前に、皆様もご覧になったと思いますが、このフォーラム、或いは取り組みに賛同 いただきました、県外の多くの利用者の方々にも、展示をしていただくなど、この読書バ リアフリーを鳥取発、全国に、世界に発信をしていく、そういう大きな取り組みに、たく さんの方に協力いただいていること、また、この後、宇野先生や、多くのパネリストの方 に参加いただいて、この現状と課題をしっかり深掘りする中で、私たちに今できること、 いや、すべきことは何か。これをしっかり考えていく、絶好の機会になるものと思ってお ります。 今年の夏は、コロナ禍の中で様々な議論がありましたが、オリンピック・パラリンピック が開催されました。 多様性というキーワードのもと、多くの選手が素晴らしい活躍をする、そのあとに、ほと んどの選手が「ありがとうございました。」そんな感謝の言葉をたくさん述べられておら れました。 昨年の夏、高校野球の全国大会、甲子園大会が代替大会という開催になりました。 その場面で、日本高野連の八田会長様が「ありがとう」いう言葉の反対語は「当たり前」 こんなお話をされたことが、私は非常に印象深く心に残っております。 これまで、誰もが当たり前だと思っていた時間や、空間や、人との触れ合いができなくな ったときに、そのかわりをすべく、様々な取り組みや、また違った関わり方をする中で、 ありがとうございましたっていう言葉が、本当にこれほど大切な言葉である こと、気づかされたように思います。 この読書バリアフリーも、本当の意味での共生社会を目指して、読書バリアフリー法効率 化をすることが目的ではなく、また、本件もこの3月に策定した計画、計画を策定するこ とが目的では決してないこと。 その法に基づいて、計画に基づいて、人と人との心を耕すこと。 そして、お互いに認め合うこと。 お互いに支え合うこと。 私は、読書には、そんな人の心を耕す、豊かにする、そんな大きな力が秘められているも のと思います。 このたびの読書バリアフリー法の法律化を受け、そしてこれをさらに、浸透させるべく、 今回のフォーラムが、皆様方のお力添えやお心添えをもって、広く深く、たくさんの方の 心に届いて、豊かな鳥取県、鳥取発、豊かな心が全国に響き渡りますこと、これを心から 念じているところでございます。 開会にあたりまして、一言ご挨拶をということで立ちました。 でもこうして皆様方のまっすぐな視線をこうして受けて、本当に私自身、心強く、そして うれしく思っております。 ぜひ、私たちも頑張りますが、ご参加いただいた、ご賛同いただいた皆様方の心を持って 、この取り組みが一層、広がりますことを心から念じ、私からのごあいさつとさせていた だきます。 本日は本当にありがとうございました。 どうぞよろしくお願いいたします。 【配布資料説明・講師紹介 09:39】 教育長は、所用のため、この後退席させていただきます。 講演に入ります前に、資料についてご説明します。 皆さんのお手元に、本日の講演やパネルディスカッションの資料を綴じたもの、鳥取県の 計画とその概要、質問用紙、アンケート、県立図書館のはーとふるサービスのチラシをお 配りしております。 はーとふるサービスのチラシには、各種サービス案内やイベントのチラシを挟んでおりま す。 また、本日は、点訳した資料、文字を拡大した資料もご用意しております。 必要な方は、スタッフにお申しつけください。 点字資料につきましては、本日の日程等を記載しております、表紙、講演、報告、パネル ディスカッションの発表者別に4部、合わせて7部、お配りしております。 資料のそれぞれ最初に表紙をつけ、その右方に、表紙、講演、報告、パネリストの方の資 料には、大道氏、齊藤氏、廣谷氏、遠藤氏、とそれぞれ発現される方の名前を点字で表示 しておりますので、ご確認いただきながら、講演、報告、パネルディスカッションをお聞 きください。 フォーラム全体を通しての質問につきましては、お配りした質問用紙にお書きいただき、 講演、報告の後の休憩時間に提出していただきますようお願いいたします。 パネルディスカッションの中で回答したいと思います。 代筆が必要な方は、休憩時間にスタッフが対応しますので、お知らせください。 Zoomで視聴されている方は、チャット機能を使って質問をご記入ください。 よろしくお願いいたします。 それでは、ただいまから講演に入ります。 講演につきましては、筑波大学附属視覚特別支援学校教諭、宇野和博(うのかずひろ)先 生にご講演をお願いしております。 宇野先生は、東京学芸大学教育学部をご卒業後、東京都での中学校教諭を経て、現職の筑 波大学附属視覚特別支援学校にご勤務されています。 また、日本弱視者ネットワークの教育担当役員として、弱視者のための教育環境の改善に 関する活動に携わっておられるとともに、拡大教科書の普及にも取り組まれ、著作権法改 正や、いわゆる教科書バリアフリー法の制定を実現し、教育に関わるテキストのバリアフ リー化にも尽力されました。 その後も、障がい者の読書環境を整備するための、マラケシュ条約批准や、読書バリアフ リー法制定など、障がい者の教育環境の整備にかかわられており、現在はNHKラジオ、 視覚障がい者ナビラジオのレギュラーコメンテーターとしてもご活躍中です。 本日の御講演の演題は、「誰でも読みたい本が自由に読めるような読書環境を目指して」 です。 なお、本日宇野先生におかれましては、感染予防対策として、東京との中継でご講演をい ただきます。 それでは、宇野先生どうぞよろしくお願いいたします。 【講演 14:13】 皆さんこんにちは。 声は届いていますでしょうか。 私がただいまご紹介いただきました筑波大学附属視覚特別支援学校、いわゆる盲学校の英 語の教師をしております、宇野和博と 申します。 今日は、今お話にありましたように、「誰でも、読みたい本が自由に読めるような読書環 境を目指して」というタイトルで、およそ1時間、お話をさせていただきます。 なぜ私が今日この立場で、ご講演させていただいてるか、と申しますと、読書バリアフリ ー法という法律の制定運動に関わった からだというふうに思っております。 まずは、私の自己紹介をさせていただきます。 私は、鳥取県と同じように、日本海側の福井県に生まれました。 そして、18歳、高校卒業するまでは、福井に過ごしたわけですが、その頃までは、実は視 覚に障がいはありませんでした。 そして、東京の大学に進学して、一旦、東京都の中学校の教員になったんですけども、20 代中頃から、目の病気が発症し、徐々に目が悪くなっていきました。 そして、盲学校に勤めたわけですが、盲学校の中でも、徐々に目が悪くなってくると、通 常の教科書が読めない、そして文字を大きくして教科書を読む。 さらには最終的には、点字で教科書を読む、というような課程を人生の中で経てきました。 そんな中で、盲学校の、弱視の生徒を見ていると、当時は拡大教科書というものがありま せんでしたので、弱視の子供たちが教科書を読むことに苦労している、その実態を見て、 これは何とかしなくてはいけない、というふうに考えました。 そして拡大教科書の充実を求める運動を起こし、2008年に教科書バリアフリー法が制定さ れた、という経緯があります。 その時に感じたのは、教科書は整備されたけれども、子供たちにはほかにも学習参考書や 問題集、または、課題図書、その他の一般的な図書、これを読む環境が十分ではない、と いうことを感じたわけです。 私自身は、子供の時からいろんな本を読んで、本から多くの影響を受けていましたので、 このような環境が、盲学校の生徒にはないということに、とても驚きまして、そしてその 教科書バリアフリー法の後には、次は読書のバリアフリー化が必要だ、というふうに考 え、そして読書バリアフリー運動を2008年から始めたという経緯になります。 今日はテーマとして、障がいと読書について、これからお話をさせていただきます。 では、レジュメも画面に映していただいていると思いますので、基本的にはこのレジュメ に沿って、お話を進めさせていただきます。 まず、今私は、私にも視覚に障がいがあると申し上げましたけれども、この障がいとは何 でしょうかということから一緒に考えていきたいと思います。 日本には、障がいを持った人は、人口の約1割近くとも言われていますけれども、誰もが 障がいを好きに、持ちたくて持ったわけではない、障がい者になりたくてなったわけでは ないと思います。 ところが、私のように、人生の途中に病気になって、障がい者になる、っていうこともあ りますし、突然の、事故などで障がい者になる人もいます。 また、誰もが高齢になって、視力や聴力認知力が衰えていって、そして障がいに近い状態 になる人は、かなりの割合でいるんじゃないでしょうか。 この障がいとは何ぞや、ということについて、少しここで、皆さんにも伺ってみたいと思 います。 この近年、障がいについての考え方を変えていこうというような動きが続いています。 ではここで質問です。 障がいという言葉を別の言葉に置き換えるとするならば、次の七つの選択肢のうち、どれ が最も近いでしょうか。 まず一つ目は、故障、心身の故障。 二つ目は、欠陥。 三つ目は個性。 四つ目は特性。 五つ目は、差異、いわゆる違い、ですね。 六つ目は条件。 七つ目は、多様性、ということです。 会場にいる場合は、ここで手を挙げてもらったり、拍手をしてもらったりして、皆さんの ご意見を伺いたいところですが、今日はオンラインですので、それは省略させていただい て、話を進めます。 人によっては、まだ障がいとは心身の故障や欠陥だなというふうに思っていらっしゃる方 もいるかもしれませんが、いやいや、障がいは個性だよ、特性だよ、単なる違いだよ、一 つの身体的な条件だよ、多様性の一つだよ、というふうに考えていらっしゃる方も多くな ってきてるんだと思います。 この最初の、心身の故障や欠陥という考え方と、その他の五つの考え方。 これが実は最近広がってきている、障がいに対する考え方の違いに象徴する言葉でもあり ます。 どういうふうに変わってきたかと言いますと、障がいというものは、ごめんなさい、医学 モデルや個人モデルという言い方もあるんですが、医学モデルから、社会モデルへと変え ていこう、このような動きが、世界的、それから日本の国内にもあります。 医学モデルや個人モデルってのは何だ、ということなんですが、これがまさに心身の故障 や欠陥というふうに考える考え方なんです。 障がいとは、個人の体の中に存在する、ということなんですね。 ところが、新しい障がいの定義というものは社会モデル、これは、もちろん個人の機能の 問題もあるんですけれども、それだけで障がいということは、顕在化することがない。 これは社会がつくり出している、社会の環境との相互作用で障がいが表に出る、顕在化す る、という考え方なんです。 例えば、わかりやすい例を出してみましょう。 ある観光地に綺麗な風景がありました。 その風景の前には、高い塀があったとします。 大体、1メートル70センチぐらいの塀があったとします。そこに3人の子供がやってきまし た。 小学生、中学生、高校生、身長が違います。 高校生の子供は身長が180センチぐらいありますから、ちょっと背伸びをすれば、その170 センチの塀の向こう側の風景が見ることができます。 ところが、それより背の低い中学生は、背伸びをしても、その塀の向こうの景色を見るこ とができません。 あと、30センチあったら見ることができる、ではどうすればよいか。 簡単なことですよね。 30センチの踏み台を用意すれば、その人は向こうの景色を見ることができる、ということ なんです。 では小学生はどうか。 30センチの踏み台があっても、まだ、塀の向こうを見ることができません。 そこで、その小学生のためには、50センチの台を用意すればその子は見ることができる。 この30センチや50センチの踏み台こそが、まさに配慮ということになるわけです。 この、ような例はほかにもあります。 例えば、昔話にウサギと亀というお話があります。 山の麓までウサギと亀が競争するという話なんですけども、あの話は、陸上を走っていく 競技であるから、ウサギが早いということが言えるわけです。 でも仮にウサギと亀が、25メートルのプールで、25メートル泳ぐ競争をしたらどうなる か。 これは言うまでもなく、亀の方が早いわけですね。 つまり、ウサギや亀が持っている能力が、周りとの環境によってどう引き出されるか、と いうのが、環境によって変わってくる、ということなんです。 先日、オリンピック・パラリンピックが東京で開かれました。 男子マラソンの記録は2時間8分ぐらいだったと思います。 パラリンピックの車椅子のマラソンの記録、ご存知でしょうか。 これは2時間よりもはるかに早い。 確か1時間30分弱だったと思います。 つまり、平らな道であれば、健常者が走るよりも、車椅子の人が42キロを移動する方がは るかに早い。 ところが、この地面をですね、砂利道とか、段差がある道に置き換えたとします。 そうなると、突然結果はまるっきり逆のものになります。 むしろ、車椅子の人にとってみれば、42キロを走りきるっていうことは、不可能になるか もしれない、ということなんです。 このように、社会の環境や配慮によって、その人の能力が大きく変わってくる、障がいか 障がいでないかが、大きく変わってくる。 これが先ほど申し上げた、医学モデルから社会モデルへという考え方なんです。 そのことを日本の社会にも当てはめていこう、というふうに制定されたのが、2013年の 障がい者差別解消法というものなんです。 その名の通り、障がい者に対する差別を少なくしていく、というのが法の趣旨です。 この法律の中の大きなキーワードが二つあります。 その一つが、合理的配慮、というものです。 もう一つは、環境整備です。 これからの差別をなくしていくためには、国や自治体、それから、3年以内に民間企業に も義務として求められてきますが、障がい者に対しては、合理的な配慮をしていこう、た だし、過重な負担になる場合は除きます。 過重な負担にならない限りは、合理的な配慮をしていこう、これがこの法律の趣旨になっ ています。 または、環境整備をしていこう、ということなんです。 この合理的配慮と環境整備。 これはこれからお話しする、図書館や読書の問題にも大きく関与してきますので、心の片 隅に、留めといていただければというふうに思います。 そして、その考え方は、実は皆さんが、かなり馴染み深くなってきた言葉、バリアフリー とユニバーサルデザイン、という考え方にもあい通ずるものがあります。 バリアフリーとは、1990年代ごろから、世の中に広まってきた言葉なんですが、バリア、 障壁、壁、ですね。 これをなくしていこう。 これは主に、最初は交通バリアフリーとか、移動の問題でよく使われました。 そして、バリアフリーという考え方の前に、そもそも、壁を作って、後でとっぱらうとい うことではなく、最初から誰もが使いやすい、誰もが使えるようなデザインにしていこ う、という考え方がユニバーサルデザインということになります。 この考え方が実は決して、交通や移動の問題だけでなく、読書などの情報の分野でも言え てくるということなんです。 この、ユニバーサルデザインという考え方を、ちょっと別の言葉に置き換えると、私はワ ンソース、マルチユースという言葉だと思っています。 ワンソースというのは、一つの源。 情報の元になるデータ、と思います。 それをマルチユースいろんな形で使っていく、読書でいうと、点字や、拡大文字、音声な どなど、このようにマルチで使っていく。 ですので、活字本になってしまうと、そこにアクセスできない人が生まれるわけですけど も、その活字本の前の段階のデータを、アクセスフルな形で活用していく。 これが、この電子データを、スタートとするワンソース、マルチユースという考え方か な、いうふうに思っています。 では次に、読書について考えてみます。私たちは子供の頃からよく、私もそうでしたが、 親に本を読みなさいというようなことを言われました。 本を読むとどんないいことがあるんでしょうか。改めて考えてみましょう。 まず子供時代、子供にとっての読書、どういう意味があるのか。 これは皆さんもおわかりのとおり、決して一つではなくて、たくさんいいことがありま す。 それが実は子供読書推進法の中にもきちんとうたわれています。 それを少し確認してみます。 法律の中には、子供の読書活動は「言葉を学び」という言葉から始まっています。 おそらく、子供が生まれて、赤ちゃんから幼児になる、この頃に、人によってはお母さん の膝の上で、絵本を読んでもらうこと、 これが初めての本、活字との出会いじゃないでしょうか。 その時にお母さんの声を通して、言葉を学んでいく、これは誰もが経験していることだと 思います。 その次に「感性を磨き」と書いてあります。 私たちの感性感情というのは、喜怒哀楽をはじめ、いろいろな感性を大人になるまで磨い ていきます。 もちろんそれは、実体験を通して、磨くこともあるんですけれども、決して経験できない ことを本の中で経験し、そしてその中で心を揺り動かされて感性を磨いていく、というこ ともあろうかと思います。 表現力を高め、とも書いてあります。 こうやって、大人になってお話をする、または文章を書く時に様々な表現をする。 これは本から出てきたことが多いのではないでしょうか。 それから、想像力を豊かにする、SFの世界や海底の世界などは、決して実体験できるも のではありません。 想像力が豊かになっていきますよね。 そして最終的に、人生をより深く生きる力を身につけていく上で、欠くことのできないも のである、というふうに定義されています。 これくらい、子供にとって本というのは、欠くことのできない、重要な学習媒体であると いうことがわかるかと思います。 では、大人にとってはどうか。 これも、文字活字文化振興法という法律の中にきちんと書かれています。 文字活字文化とは、人類が長い歴史の中で蓄積してきた知識、及び、知恵の継承、及び向 上と書かれています。 私は前に、中国の西安というところに行ったことがあります。唐の長安と呼ばれてたとこ ろです。 そこにはたくさんの石碑があって、そこの石碑には、何千年前の、文字漢字がたくさん書 かれていました。 おそらくこれがいわゆる漢詩というものだと思うんですが、その当時の様々な人の考え 方、知識、知恵というものが、石の上に刻まれた文字によって、今日まで、伝えられてき ている。 そして、これまで先人たちが培ってきた知識や知恵というものの上に、私たちがさらにそ れを足している、向上させている、ということが言えるかと思います。 また、人間性の涵養、人間性をゆっくりと育んでいく、ということにとっても、文字活字 は大きな役割を果たしています。 最終的に、健全な民主主義の発達、ここに欠くことができない、というふうにうたわれて います。 このように考えてくると、実は文字活字というのも、まさに、インフラ、ライフラインの ようなものだというふうに思えてきます。 電気、電話、水道、ガス、これに、準ずるような、非常に重要なライフラインかなってい うふうに考えています。 これがすべての人間にとってそうなんですけれども、特に障がいのある人にとっては、こ の文字や活字、本というものが、さらに重要度を増してくるという場面があります。 そのあとに二つの言葉を並べています。 心の食べ物、と生き延びるための読書バリアフリーという言葉を並べています。 これは、誰が言った言葉か、というと、実は東京大学に勤めておられる2人の障がいのある 先生が言った言葉なんです。 一つ目の言葉は、全盲聾、目も見えない、耳も聞こえない、盲聾の東大の先生、福島智 (ふくしまさとし)先生がおっしゃった言葉なんです。 盲聾者の場合は、テレビを見る、ラジオを聴くっていうことができませんので、周りの情 報や大事な知識というものは、通訳介助者の手から、指文字や指点字で伝えてもらう。 もしくは、点字図書を読む、ということで得るわけです。 そうなると、点字図書、というものは、福島先生にとっては、心の食べ物だ、ということ になるわけです。 肉体の食べ物というのは、言うまでもない食料食事なんですけども、本が心の食べ物。 この感性というのは、言われてみて、なるほどなっていうふうに私も感じました。 もう一つの言葉は、東大の同じく、脳性麻痺で、首から下が不自由な車椅子ユーザーの、 熊谷晋一郎(くまがやしんいちろう)先生がおっしゃった言葉なんです。 やはり熊谷先生も、本を手にとって、そして自由にページをめくって読むことができな い。 よって、この本というものを、読書をバリアフリー化していくことは、生き延びていくた めには必要なことなんだ、ということで、この生き延びるための読書バリアフリー、とい う言葉を、言われました。 では、この障がい者のために、どのような読書環境を整えていくべきなのか。 ここで、みんなが、読書に親しめるために、世界的な動きはどうだったのか。 それから、国内の動きはどういうところまできているのかについて、お話をさせていただ きます。 まずは、国際的な動きからです。 2013年に国連の専門機関、世界知的所有権機関というところが、モロッコのマラケシュと いうところで、マラケシュ条約という条約を採択しました。 このマラケシュ条約、というものは、世界中の読書に困難のある、障がい者に対し、読書 環境をよくしていってくださいねというメッセージを持った条約なんです。 この条約で私が最初に驚いたことが一つあります。 それは、この条約で利益を受ける人、受益者をどのように定義したかということなんで す。 この読書が困難な人というのは、誰もがわかると思いますけれども、目が見えない、見え にくい、視覚障がい者は、活字の本を読むことができません。 ですので、当然、受益者には視覚障がい者が入っています。 しかし、マラケシュ条約の受益者というのは、視覚障がい者だけではないんです。 誰を読書障がい者か定義したかといいますと、文字の読み書きに困難のある学習障がい 者、ディスレクシアとも呼ばれますけれども、読み書きに困難のある障がい者、それか ら、熊谷先生もそうですが、本のページを自由にめくることのできない上肢障がい者、ま たは寝たきり状態にある人は、寝たまま本をずうっと持ち続けて、ページをめくるってい うのは、なかなか難しい、本を持ち続けることが難しい寝たきりの人。 それから、眼球使用困難症というんですけれども、左右の目のピントが合わせられないと か、まぶたが下がって、などの眼球使用困難者も受益者というふうに定義したわけです。 それから、マラケシュ条約がそれぞれの国に求めたことが二つあります。 一つは、それぞれの国に著作権法というのがありますけども、著作権というものが、障が い者が本を読む足かせ、ネックにならないようにしてくださいね、著作権法の中で、障が い者への例外や制限規定というのを設けてくださいね、ということを求めています。 もう一つは、世界を見渡して、同じ言語を使っている国々に対して言えることなんです が、国境を跨いで、外国の図書、アクセスブルな図書を、お互いにやりとりできるように してくださいね、ということをうたっています。 例えばアフリカにはフランス語圏の国がたくさんあります。 しかし、発展途上国の場合は、なかなか、最新の技術やボランティア活動も進みませんの で、発展途上国に住む障がい者は、本を読む機会っていうのはかなり制限されます。 一方、フランスでは、いろんな図書が点字になっていたり、音訳図書になっていたりしま す。 そうすると、このマラケシュ条約によって、フランスで作られた音訳図書などが、インタ ーネットを通してアフリカの発展途上国の国でも読めるようになれば、これは世界的に も、読書に困難のある人の読書環境がずっと良くなる、ということが言えるかと思いま す。 日本人にとって、日本語、日本だけが日本語を使っていますので、このマラケシュ条約の 国境を超えたアクセスブルな図書のやりとりというのは、それ程大きな恩恵があるわけで はないんですけれども、例えば、アメリカやイギリス、オーストラリアなどで作成され た、英語のデイジー図書などを、国立国会図書館を通して、私たちが聞くということは、 もうできるようになっています。 このマラケシュ条約が2013年に採択され、そして世界の国々がどんどん批准をしていきま した。 そして、日本も批准方向で検討を進めていきました。 この過程の中で、私たちの読書バリアフリー法を求める運動も、相まっていきました。 そして、2018年に関連する著作権法が改正され、あわせて、マラケシュ条約の批准へと繋 がっていきます。 著作権法で何が改正されたかといいますと、それまで日本の著作権法で、音訳図書や拡大 写本を誰のためにできるのか、というのは、主に視覚障がい者のために限定されていまし た。 それをマラケシュ条約の受益者に揃えて、上肢障がい者、ディスレクシアの人、寝たきり の人、眼球使用困難の人、に対しても、 著作権者の許諾を得なくても、音訳図書や拡大写本、電子データ化をできるようにしてい きましょうということが、著作権法内で定められました。 そして翌年2019年に、読書バリアフリー法が成立、2020年、昨年に、読書バリアフリー 法基本計画が制定されたというふうに、流れていきます。 私たちは、この読書バリアフリー法制定運動の中で、大きな柱を二つ作りました。 その二つの柱とは、本を買う自由、それから借りる権利を確立したい、ということだった んです。 障がいのない人にとって、本を買うということは、例えば本屋に行ってお金を払えば買え ますし、今やネットを通して本を買うことはほぼ自由にできると思います。 また、借りるということについても、図書館に行って、やはり、何万冊から選ぶことがで きる。 それと同じような状況に、私たち読書に障がいのある人たちも、同じような環境にした い、このような柱を掲げて、読書バリアフリー法制定を求めていった、ということなんで す。 そして2019年、2020年と法や基本計画が整備されていきましたので、この土台ができて いった、ということなんです。 ではここで、障がい者のための、この読書バリアフリー法や基本計画について少し見てい きたいと思います。 まず、大きなことは、公立図書館や学校図書館、大学図書館、国立国会図書館にも、障が い者のサービスをしていってくださいね、っていうことを、第九条で求めたことがありま す。 これまで、大ざっぱに言いますと、この日本における障がい者のための読書環境整備とい うものは、ほとんどが視覚障がい者のためが中心だったと思います。 長年の視覚障がい者を中心とした運動の成果もあったと思いますけれども、日本国内には 全国で約80ぐらいの点字図書館も整備されました。 そしてボランティアの活動も点訳ボランティア、音訳ボランティア、拡大写本ボランティ アが長年、活躍されてこられました。 この対象は、やはり多くは視覚障がい者を中心としたものだったわけです。 でも、2019年の法律から、もうこれからは読書障がい者は視覚障がい者だけではないん だ、読書に困難のあるディスレクシア肢体不自由の人、寝たきりの人、などなどを対象に していこうというふうに、大きく、日本の方向性、舵を切ったわけです。 では、この法律の中で他にどんなことが言われているかということなんですが、公立図書 館が障がい者サービスって何をすればいいのか、ということなんですね。 これは基本計画の中にたくさん書いてあります。 例えば、ハード面では、まずは図書館への段差をなくしましょうと、車椅子の人でも自由 に移動できるようにしていきましょうというハード面のこともあります。 でもその中の一つに、アクセシブルな図書の紹介コーナーの設置というものがあります。 私はこの項目に、大変注目しています。 アクセシブルな図書、というのは、みなさんどういうものがあると想像できますでしょう か。 点字図書がありますよね。 録音された音訳図書があります。 弱視の人のための、拡大図書があります。 それから、知的に障がいのある人が、表現をわかりやすくして、読みやすくしたLLブッ クというものがあります。 さらには、小さいお子さんが噛んでも大丈夫な布の絵本などもあります。 他にもすべてにルビを振ったものとか、画面上に文字と音声、文字がカラオケのようにシ ンクロしながら、文字が変わっていく、マルチメディアデイジー図書なんていうものもあ ります。 しかし、まだこのような様々な媒体と、全国の読書に障がいのある人達との出会いが、ま だまだないということなんです。 そのような文字だったら、本にアクセスできる人たちが、このことを知らないということ が、あるわけです。 そこで、公立図書館、地域の住民に最も近い公立図書館に、この障がい者のための様々な 媒体を紹介する棚を作って欲しい。 ということを法律や基本計画は求めているわけです。 ここでいろんな媒体が紹介されれば、障がい者本人が直接そのコーナーにアクセスできな くても、例えば家族や友人がその棚を知って、 「ああ!あの隣の障がい者の人これだったら読めるんじゃない?」 「うちのおじいちゃん最近目が悪くなってきたって言ってたけれども、この大きな字と か、録音だったら本読めるんじゃない?」 ということが起こり得るわけです。 そして、その知り合いや、友人を通して紹介していただいて、その人とこのような媒体を マッチングさせていく。 このきっかけ、この出会いの場が、公立図書館の、このアクセスブルな図書の紹介コーナ ーであって欲しいなというふうに思うわけです。 そして、その窓口が開いた、出会いの扉が開いた後はどうする、ということなんです。 ここで知っていただきたい存在が、サピエ図書館というものと、国立と国会図書館が進め ている電子図書館ということなんです。 サピエ図書館というのは、点字図書館の集合体でもある、全国視覚障がい者情報提供施設 協会、というところが、ネット上で運営している電子図書館なんです。 全国の点字図書館などで作成された点字図書や録音図書がデータとして、たくさん所蔵さ れています。 点字図書は20万タイトルを超えますし、録音図書も10万タイトル以上にのぼります。 また、国立国会図書館は、全国の公共図書館で作成された点字図書や録音図書、そのほか にも、テキストデータなども収集しています。 そして、その公共図書館や大学図書館で作られたものを、国会図書館がデーターベース で、保存し、そして全国の障がい者に配信するという仕組みを持っているんです。 ですので、公立図書館で、窓口で、出会いが広がった。そのあとは、全国的なネットワー クにつなげていく。 つまり、点から線、線から面へと、広げていく。 こういうことが、読書障がい者の本の世界を広げていくということになるんじゃないかな というふうに思います。 ところが、サピエ図書館というものは、まだ今のところ残念ながら、図書館が加盟するに は年会費4万円を払わなければなりません。 ですので、全国の盲学校で見ると、まだ半分も、サピエ図書館に加入できていない盲学校 があるというのが実情なんです。 おそらく肢体不自由の特別支援学校では、まだまだサピエとつながっていないんじゃない か、というふうに思います。 これはもちろん学校、図書館、公立図書館もその中継役にはなっていただきたいところな んですが、障がい者個人でも、障がい者手帳があれば、IDとパスワードを取得すること ができます。 ですので最終的には、個人でサピエ図書館または国立国会図書館の登録を済ませていただ いて、自宅でインターネットを通して、様々な録音図書を聞く、というようなことができ ていきます。 で、この録音図書というのは、これまで、視覚障がい者のために作られてきていたわけな んですが、おそらく、寝たきりの人にとっても、寝ながら、目をつむりながらでも、聞け るわけですから、おそらく寝たきりの人にとっても有効な読書媒体になるんだろうという ふうに思います。 また、場合によっては、ディスレクシアの人や、肢体不自由の人にとっても、音声だけの 図書も使える可能性もありますし、先ほど少しご紹介した、画面上に文字も出てくるマル チメディアデイジー図書というような媒体も、おそらく有効な場合が多いんだと思いま す。 私は、障がい者の読書環境を整えていく、ということには、四つのプロセスがあると思っ ています。 このプロセスは、どれが欠けてもうまくいかない。 すべて大事なプロセス。 その一つ目は、作る。 二つ目は、蓄積する。 三つ目は、届ける。 四つ目は、支援する、というものです。 まず一つ目は、今お話してきた通り、作るということなんです。 活字で作られた本を点字に作り変える。 音訳する。 拡大する。 電子データ化する。 または適切は電子データがあれば、実は今の時代、パソコンを通して、自分でほぼ正確に 点訳したり、スクリーンリーダーという音声読み上げソフトを使って聞く。 多少の誤読はあるんですけれども、ほぼ正確に、機械が読み上げることもできるんです。 もちろん画面上で、文字の大きさを変えたり、字体、フォントを変えたりすることも可能 です。 いずれにしても、障がい者が読めるような媒体を作る、という第一プロセスが必要です。 次に、そのでき上がったデータを、一対一でプライベートサービスで渡していても広がり は出ません。 先ほど申し上げたサピエ図書館や国立国会図書館のように、蓄積する、というのが大事に なってきます。 インターネットというのは便利なもので、そこに、1ヶ所に集約したものは、全国の障が い者に、届けることができるわけです。 でも、その届けるというもの、仕組みが、公立図書館、学校図書館を介さなければ、最初 はわからないわけです。 何とかダウンロードやメールサービスを通して、障がい者の、手元に届けるこのプロセス も必要になってきます。 そして最後、そのデータが障がい者の手元に届いたら、いかにそれを再生するか、という 時に支援するというプロセスが必要になってきます。 例えばデイジー図書という音訳図書を例にとります。 これはサピエ図書館や国立国会図書館にありますので、ダウンロードまではできた。 ところが、手元のデイジープレイヤーに入れて、そのあとどうやって再生するのか。 どうやって早送りするのか。 スピードを変えるのはどうするのか。 デイジーというのは、レベル別に構造的にデータが管理されていますので、第1章第2章 第3章、というふうに飛ばして聞くこと もできます。 または第3章の中に入って、第1項第2項第3項というふうに飛ばすこともできます。 さらにその中に入って、第1節第2節という飛ばし方もできるんです。 でも、このような使い方は、やはり、誰かが最初に、その方に教えてあげる、支援してあ げるということを経て、音訳図書がようやくその人のところで聞けるっていうことになる んだな、というふうに思います。 読書バリアフリー法には、いろいろなことが書いてありますけれども、十七条には人材育 成ということも書いてあります。 もちろんこれは、点訳に関わる人、音訳に関わる人、電子データ化に関わる人を増やして いこう、ということも含まれるんです けれども、図書館の人材育成ということも言われています。 もちろん、図書館に働いていらっしゃる方すべてが、障がい者サービス、今言ったよう な、支援するっていうことまですべてわかっていらっしゃるっていうのは、理想的なこと です。 でもこれも一朝一夕にできることではありません。 そこで私が、提唱しているのは、この図書館の中で、まずはリーダーを作ってもらったら どうか、ということなんです。 仮称なんですけども、読書支援コーディネーター、というような役割を誰かが担って、そ して、その人がまずは中心になって、障がい者サービスについて研修を積んでいただく。 そして、障がい者へのサービスの仕方を学んでいただいた後は、その同じ館内で、他の職 員の方にも伝えていっていただく。 こういうふうなプロセスを経て、最終的には図書館に関わる人、図書館で働く人は皆、誰 でも、障がい者の読書に対しての支援ができるようになっていく。 こういうふうなプロセスが必要なんじゃないかな、というふうに考えています。 他にもいろいろなことがこの法律の中では言われています。 ちょっと注目すべきこととしては、読書支援端末機器の補助を拡充していったらどうか、 ということもうたっています。 この読書の支援という問題は、国でいうと、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、総務 省、国立国会図書館、と非常に多くの省庁が、横に繋がらなければ進まない仕組みなんで す。 その中の一つが、この読書端末機器の支援ということなんです。 視覚に障がいのある方はご存知だと思いますけれども、障がい者の日常生活用具という支 援枠の中に、デイジープレーヤーという枠があります。 デイジー録音図書を聞くためには、デイジープレーヤーが必要なんですけれども、専用機 器は高いものだと、85,000円します。 これが、日常生活用具の補助を使うと、1割負担8,500円で済むわけです。 しかし、これは多くの自治体では、視覚障がい者の1級もしくは2級に限定されています。 視覚障がい者の中でも、手帳の等級が3級以下の人や、上肢障がい者、寝たきり、眼球使 用困難症の人は、これらの補助を受けることができません。 ですので、今後は、厚生労働省や障がい福祉課とも連携しながら、この読書支援という流 れの中でですね、決してこれは図書館行政だけではなくて、厚生労働行政の中でも、読書 系支援機器を必要な人に給付していくんだっていうようなことも、これからは必要になっ てきます。 では次に、5番目のところにいきます。 では、これからどうやって読書の支援を進めていくのか、ということです。 この後お話がありますけれども、国の基本計画ができた後は、都道府県、その次は市町 村。 こうやって、まるで波紋が広がっていくように、全国津々浦々にこの読書バリアフリーの 流れを、伝えていくことが重要になっていきます。 その中で、基本計画、国の基本計画に基づいて、都道府県レベルの計画を作ってくださ い。 これを読書バリアフリー法は求めています。 実は鳥取県はすでに作成されたということですが、これは全国1・2の早さです。 現在できてるのはおそらく鳥取県と大阪府だけだと思います。 他にも今準備中の都道府県は幾つもあるんですけれども、先頭を切ったのは、鳥取県と大 阪府なんです。 これは、鳥取県民の皆様にとっては、とてもラッキーというかですね、すばらしい行政の 動きだと私は客観的に思っています。 で、この計画づくりもそうなんですけども、読書バリアフリー法の施策をどういうふうに 進めていくか。 これは、これからは、47都道府県のいわば言ってみれば、切磋琢磨、ライバルというか、 ともに、磨いていく立場になるんじゃないかなというふうに思っています。 ですので、国の基本計画にどういう肉付けをしていくか、どういう具体化をしていくかっ ていうのは、これから47通りの、計画が出てくるんです。 さらに、この計画というのも、5年後10年後見直しっていうこともあろうかと思いますけ ども、その時に、この他の都道府県の動きを見ながら、 「あ!あそこでこんなことをやってるんだから、うちでも取り入れようよ」 というような動きっていうふうになっていくといいなというふうに、思っています。 それから、次に、この県の計画を受け、受けた動きというのは、市町村に伝わっていくわ けです。 最終的には自治というのは、市町村が住民に向かい合うわけです。 ですので、市町村ごとに、どのような、サービスを提供していくか。 今度は、キーワードは私は機敏性ということになろうかと思っています。 市町村ごとでも、いろんなアイディアを出し合って機敏性を持って、障がい者サービスを 進めていく。 例えばですね、兵庫県の明石市というところなどは、移動図書館というバスをもう動かし ているんです。 来館に困難のある人というのがいる限りは、そしたらこっちから出かけてしまえっていう ことなんですね。 図書館にある本の一部をバスに積み替えて、そしていろんな地域を、バスで巡回して巡っ ていく。 そして、図書館にあるほどたくさんではないですけども、そこのバスの中にある本を見て もらって、そこで貸し出しサービスをしてしまう、なんていうことをやっているんです。 この来館困難者、という言い方なんですけども、もちろん寝たきりの人は来館困難者です よね。 私のように視覚に障がいのある人も、図書館まで交通機関がある程度整ってて、ちゃんと 図書館まで点字ブロックが引かれていれば、来館することは不可能ではありません。 でも困難といえば困難なので、場合によっては視覚障がい者も来館困難者になり得ると思 います。 兵庫県明石市は、この前聞いたんですけども、この来館困難者、よく考えたら、例えば、 赤ちゃんが生まれたばかりのお母さん。 これも、来館困難者じゃない?というふうに考えたわけです。 なかなか、赤ちゃんをおぶって、ベビーカーに乗せて、図書館に本を借りに行く。 これは確かに大変なことですよね。 ですので、この赤ちゃん生まれたばかりのお母さんに対して、本を宅配する、移動図書館 で本を貸し出す。 なんていうのを、市町村ならではの機敏性だなというふうに、私は聞いていました。 このように、いろんな立場の人が、本とめぐり合うために、図書館の工夫、機敏性という のは、これからいろんなところで、進んでいって欲しいなというふうに、感じたわけで す。 最後に、ちょっとことわざを変えたものをご紹介したいと思います。 一般的なことわざは、仏作って魂入れずという言葉がありますけども、やっぱり裏を返せ ば、これは仏を作ったら魂を入れましょう、ということだと思うんですね。 この法律や、基本計画は、いわば、仏ということになるわけです。 先ほど教育長の、お話にもありましたけれども、法律や計画は決して目的ではない、じゃ あこの仏ができたら、いよいよもって魂を入れる。 本当に障がいのある子供達、障がいのある人が、みんな、いつでもどこでも誰でも、本が 読める。 文字活字文化の恵沢を享受できる、このような社会を作り上げていくために。 では、行政はどういうことをしていくべきなんだろうか。 学校図書館はどうなんだろうか。 大学図書館の役割って何なんだろうか。 インターネットに何をやってもらったらいいんだろうか。 こういうことを考えていくことが、これから大事なんだろうなというふうに思います。 つまり小さく産んで、大きく育てる。 これこそがこの読書バリアフリーという、考え方にとって、大切なことなんだろうなっと いうふうに思います。 以上、拙い話でしたけれども、お聞きいただきありがとうございました。 これで私のお話を終わらせていただきます。 ありがとうございました。 宇野先生、ありがとうございました。 それでは、お礼の気持ちを込めまして、宇野先生に大きな拍手をお願いいたします。 続きまして、報告「鳥取県視覚障がい者等の読書環境の整備の推進に関する計画につい て」に入ります。 報告者は鳥取県立図書館、情報相談課、相談担当係長、福市信(ふくいちまこと)です。 ではお願いします。 【報告 01:14:34】 鳥取県立図書館の福市といいます。 本日はよろしくお願いします。 私からは、この3月に作成しました、鳥取県視覚障がい者等の読書環境の整備の推進に関 する計画について、お話をさせていただきます。 あわせまして、今年度の取り組みでありますとか、県立図書館の、図書館利用に障がいの ある方へのサービスである、はーとふるサービスについても少しお話をさせていただきた いと思っております。 ではよろしくお願いします。 それでは鳥取県視覚障がい者等の読書環境の整備の推進に関する計画について説明させて いただきます。 まず、この計画の策定の背景についてですけれども、鳥取県では、障がいを知り、ともに 生きるを合言葉に、平成21年にスタートした、あいサポート運動でありますとか、平成 25年に、全国に先駆けて制定した手話言語条例など、様々な取り組みを実施してきており ます。 また、県立図書館では、はーとふるサービスとして、図書館利用に障がいのある方へのサ ービスを実施しております。 鳥取県ライトハウス点字図書館におきましても、視覚障がい者の方へのサービスを中心 に、点字図書の点字図書や録音図書の製作や、貸出を実施してきております。 ただ現状としまして、これらの資料を必要としている利用者への周知がまだまだ十分では なく、まだまだ身近な場所で、必要な資料が、入手しやすい状況にはまだなっていないの ではないかというふうに考えております。 計画の策定までの経緯について少し説明します。 令和元年、令和元年の読書バリアフリー法の施行を受けまして、令和2年7月に公表され た、国の基本計画に合わせて、鳥取県の計画策定に着手しております。 具体的に計画を作成するに当たりまして、県立図書館と県の障がい福祉課と、いろいろと 協議をしながら進めていたわけですけれども、国の基本計画を参考にしながら、鳥取県の 強みは何であるかとか、今できること、すぐにできそうなことは何か、すぐにはできない けれども、将来的にできそうなこと、などなどを整理しながら進めていっております。 また障がい当事者の方々など様々な立場での意見も計画に反映させる必要がありますの で、障がい当事者を代表する団体でありますとか、図書館関係、特別支援学校、ボラン ティア、出版界などから、代表の方々で構成しました関係者協議会を設置しまして、協議 を行いながら、計画作成に当たっております。 関係者協議会は、3回開催しました。 1回目につきましては、法律や国の基本計画の概要、県立図書館や、鳥取県ライトハウス 点字図書館の取り組みを説明した上で、県の計画案について説明を行っております。 2回目につきましては、1回目にいただいた意見を反映した計画案を、3回目は、2回目の 後に実施したパブリックコメントの結果を反映した計画案をそれぞれ諮っております。 計画作成の進行状況については随時、県議会でありますとか教育委員会等に報告しながら 作業を進めております。 そして、令和3年3月3日に、全国に先駆けて、計画案の策定ということになりました。 計画の内容ですけれども、先ほど背景のところで少し述べましたけれども、点字図書であ りますとか大活字本、LLブックなど、障がいに配慮した資料がまだまだ十分に普及して いるとは言えない。 また、県立図書館が行っているハートフルサービスも十分に周知取り組みはできていると は言えない。 またライトハウス点字図書館でも、様々な取り組みを行っていますけれども、まだまだ身 近なサービスになっているとは言えない状況であるというようなことを踏まえた上で、計 画を作成していきました。 基本的な方針としましては、視覚障がい等の方々が利用しやすい資料の普及に取り組むこ と。 鳥取県の図書館ネットワークなどを十分に活用して、資料の充実や質の向上を図ること。 障がいの種類、程度に応じた配慮を柔軟に行うことなどを挙げております。 次に、施策の方向性としまして、国の基本計画に沿った形で項目立てをしておりますけれ ども、まず、視覚障がい者等による、図書館利用に係る体制の整備等という項目ですが、 アクセシブルな書籍等の充実、の部分です。 県立図書館を中心とした、図書館ネットワークとライトハウス点字図書館が連携して、書 籍の充実に努めることとしております。 次に、円滑な利用のための支援の充実の部分ですけれども、ライトハウス点字図書館と公 立図書館がネットワークを構築し、身近な図書館等が円滑に利用できるような読書環境づ くりを進めること。 図書館が視覚障がい者等の読書の場であることを周知すること。 施設や設備の整備や、情報提供体制を充実すること。 学校における支援体制を整備するための具体的な取り組みを実施すること。 地域の視覚障がい者等の円滑な利用やアクセシブルな書籍の充実のために、ライトハウス 点字図書館と公立図書館の連携が必要であることなどを挙げております。 インターネットを利用したサービスの提供体制の強化につきましては、国立国会図書館の 視覚障がい者等へのサービスや、サピエ図書館、先ほど講演の部分でもありましたけれど も、その十分な活用を図るために、研修や広報を通じて周知を図り、ライトハウス点字図 書館と公立図書館が連携して、サービス内容や提供体制の充実を図ることとしておりま す。 次に、特定図書、特定電子書籍等の製作の支援の部分です。 この特定図書、特定電子書籍等というのは、視覚障がい等の理由で、読むことに困難のあ る人が、利用することができるように製作された資料のことなんですけれども、ライトハ ウス点字図書館が中心となって、公立図書館と連携すること、郷土出版社と定期的に情報 交換することなどをあげております。 端末機器等及びこれに関する情報の入手支援、情報通信技術の習得支援の部分につきまし ては、ライトハウス点字図書館と公立図書館とが連携しながら、情報の提供、講座を開催 するなど、利用者の支援をしていく、ということ。 また、学校関係者に対しましても、県立図書館の学校図書館支援センターを中心に活動し ていくこと、としております。 制作人材、図書館サービス人材の育成、これが施策の方向性の最後の項目になりますが、 司書、司書教諭、学校司書等の資質向上に関しては、県立図書館が中心となって、ライト ハウス点字図書館と連携しながら、研修などを実施していく。 点訳者や音訳者の育成に関しましては、ライトハウス点字図書館を中心に、やはり、公立 図書館と連携しながら、人材の養成に取り組むこととしております。 具体的な指標として、県立図書館、県立学校のアクセシブルな書籍数でありますとか、県 立図書館、ライトハウス点字図書館の利用登録者数、点訳、音訳奉仕員の数など、施策の 方向性の項目ごとに、その計画の進捗状況を確認するために参考となる数値をあげており ます。 計画の期間につきましては、令和3年度から令和7年度までの5年間です。 この5年間を検証してまた次の計画につなげていくということになろうかと思います。 計画の推進体制につきましては、県、市町村、関係団体等で情報交換を行いながら、進め ていくということにしております。 計画の概要につきましては以上なんですけれども、今後は、この計画に沿って、具体的な 取り組みを進めていくということになりますが、その取り組みとして、今年度の取り組み を、資料に上げております。 今後、読書バリアフリー推進に向けて、具体的な取り組みを進めていくためには、関係団 体との連携が重要になります。 推進体制のところでも、話しましたけれども、関係者が情報交換を行う場として、関係者 協議会を設置することとしております。 また、計画についての周知でありますとか、現在、図書館やライトハウス点字図書館が実 施しているサービスを知ってもらうための取り組みとしまして、本日のフォーラムの開催 でありますとか、デイジー図書の利用促進を図るための一つの取り組みとしまして、県立 図書館のはーとふるサービスコーナーのリニューアルを実施することとしております。 公立図書館との連携強化を図るために、鳥取県ライトハウス点字図書館職員の、増員も行 っております。 また、市町村立図書館職員などへの研修や、視覚障がい者等向けの機器の使用方法に係る 研修の実施。点訳音訳ボランティア向けスキルアップ研修の実施。 点字音訳指導員、認定講習会への派遣なども実施します。 計画を策定しまして、今後は計画に沿って、具体的な取り組みを進めながら、計画そのも のの見直しだとか、手直し、確認作業なども必要になってくると思います。 関係者としっかり連携して、読書環境の整備を進めていきたいと思っております。 最初にもお話しましたけれども、ここからは、県立図書館のはーとふるサービスについて 少しお話をさせていただけたらと思います。 皆さんのお手元にもチラシを配布しております。 はーとふるサービスといいますのは、県立図書館の図書館利用に障がいのある方へのサー ビスのことです。 チラシにもありますけれども、様々な資料で、いろいろな困ったに応じたサービスを、バ リアフリーな機器や設備を使用しながら、実施しています。 様々な資料としまして、デイジー図書、マルチメディアデイジー図書、オーディオブッ ク、バリアフリー映画、DVD、布の絵本、さわる絵本、LLブック、大活字本などを所 蔵しております。 本日は、この会場のすぐ外で、これらの展示も行っております。 休憩時間でありますとか、このフォーラムの終了後にでも、お立ち寄りいただければと思 います。 これらの資料を知っていただくために、はーとふるサービスコーナーというコーナーを県 立図書館にも設置しております。 いろいろな困った、に応じたサービスとしましては、郵送貸出でありますとか、対面音訳 サービス、タブレットを使用した遠隔手話通訳サービスなども行っております。 また、機器とか設備につきましては、拡大読書器、老眼鏡、拡大鏡、点字プリンター。 音声の資料を使用するための機器である、プレクストーク、携帯プレーヤー。 本を読む時の補助用具のリーディングトラッカー。 色の識別が困難な状態を体験できる、色弱模擬フィルターなど、障がいに配慮した様々な 機器や設備があります。 また、手話、字幕つきの図書館サービス紹介DVDも作成しております。 これは県立図書館のホームページからでも、ご覧いただけるようになっております。 また県立図書館が行ってる事業としましては、市町村立図書館、特別支援学校への支援と して、資料の貸出、これは個別の利用に対応するリクエスト貸出と、あらかじめ図書館側 である程度資料をまとめたセット貸出、このセット貸出には、障がいに配慮した資料をセ ットしたハートフルセットなども、準備しております。 録音図書も、それを聞くために必要な機器を合わせて貸出を行っております。 貸出につきましては、図書館のネットワークという話がこれまで何回か出てきております けれども、県立図書館の本は、お近くの市町村立図書館で借りていただくことができま す。 ご存知の方も、たくさんおられると思いますが、お近くの図書館で借りたい本を申し込ん でいただきますと、その本が翌日、翌々日に、頼まれたお近くの図書館に届く、そういう ようなシステムがあります。 このシステムは全国的にも、すぐれたシステムというふうに評価を受けておりますけれど も、もちろん録音図書でありますとか、それを、利用するための機器なども、同じように 借りていただくことができますので、ご利用いただければと思います。 その他、訪問相談でありますとか、研修セミナーの実施、バリアフリー映画上映会、手話 で楽しむおはなし会、手話通訳つき図書館見学ツアー。 また職員の研修なども行っております。 ただこれらのサービスを実施しておりますけれども、まだこれらのサービスが、必要な方 々のまだごく一部にしか届いていないというのが現状だと思います。 本日のフォーラムもそうですけれども、機会をとらえて発信していきたいと考えておりま す。 県立図書館からの報告は以上です。 ありがとうございました。 それでは、ただいまから10分間の休憩に入ります。 15時10分からパネルディスカッションを始めさせていただきますので、それまでにご着 席いただきますよう、よろしくお願い いたします。 なお、この休憩時間に質問用紙を回収しますので、お近くのスタッフにお渡しください。